短編:仕事で疲れた夜は

「お疲れ、ユーリ」
「仕事大変だったでしょ?お茶出すから、ゆっくりしてって」
「ユーリちゃん、毎日仕事頑張ってて偉い!」

平日の夜、松野家の最寄り駅付近で用事があったから、トド松くんに貸す約束をしていた本を持って仕事帰りに六つ子を訪ねた。ガラガラと音を立てて開く戸の先で出迎えてくれた六つ子から飛び出した労いの言葉に、私は思わず笑ってしまう。彼らの年中変わらない騒々しさは、仕事による疲労感や気疲れを根こそぎ奪ってくれる、そんな錯覚をしそうになる。
夜も遅いし明日も仕事だからと一旦は固辞をしたけれど、結局は根負けしてパンプスを脱いだ。


「今日はスーツなんだな?」
私に座布団を差し出しながら、カラ松くんが尋ねる。
襟元にボタンのついていないスキッパーシャツとグレーのパンツスーツが、今日の私の出で立ちだ。ジャケットを脱いで、両手を思いきり天に突き上げて伸びをする。ウエストラインを絞った上着は機動力が低下する上、少々息苦しくもある。洗練された印象と引き換えに快適さを失う服装だ。
「ちょっと外出る用事があってね」
「知的で気品のあるレディが戸を開けたと思ったら、まさかユーリだったとは。纏う布一枚変えるだけでクールさまで醸し出せるハニーのポテンシャルには、脱帽するしかないな」
もっと言いたまえ。
こういう時の松野家次男坊の褒めスキルは効果絶大である。自宅に帰ってとっとと布団に飛び込みたい気持ちもあるが、HPばかり優先してMPの回復を怠ってはいけない。HPは休息である程度元通りになるが、MPは楽しまなければ回復しないのだ。

「ねぇ、ユーリちゃん、せっかくだし一杯飲まない?
父さん秘蔵のクラフトビール、ユーリちゃんになら出していいって。ボクもお相伴したいなぁ」
末弟が冷えた瓶ビールを私に差し向けながら笑顔で言う。自分もおこぼれに預かろうという魂胆が見え見えだ。
「ちゃっかりしてるなぁ、トド松くん」
「あ、俺も飲む飲む。それ確か二本あったよな?」
おそ松くんが軽やかな足取りで冷蔵庫に向かい、同じラベルの瓶をもう一本出してくる。
「ユーリちゃん慰労会ってわけだね」
「そういうことなら参加しないわけにはいかないな」
「ぼくも一緒に飲むー」
三男から五男までが、いそいそと食器棚から取り出したガラスコップを構え、瓶を握る二人の開栓の儀を待つ。
「ちょっと、ユーリちゃんにならいいって話だから。クソニートどもに飲ませる酒はないよ、散れ
「そんなこと言うなよ、トッティ。ユーリちゃんが二本開けちゃったってことにすればいいんだって」
スケープゴート止めてください。
「父さんユーリちゃんにはデレッデレだから、しょうがないなぁで済むよ。な、チョロ松?」
「確かに。将来的にユーリちゃんが松野家の名字継いでくれたら全然チャラになる話
「待たんか」
ニートどもの一時の私利私欲のために私の輝かしい──かもしれない──未来を捧げるの止めろ。

琥珀色のビールが小気味好い音を立ててグラスに注がれ、手のひらにひんやりとした冷たさが伝わる。しゅわしゅわと白い泡が消えていく。耳に心地よい音色に酔いしれながら、私たちは一気に中身を飲み干した。
炭酸が喉に流れていく。飲み慣れたビールとは異なる、爽快感のある辛みが口内に広がって、至福の一瞬である。
結局、二本のクラフトビールを七人で分け合うことになった。慰労会は言うまでもなく名目に過ぎず、とどのつまりただ酒が飲みたい六つ子である。
「んー、うまっ!」
しかし、そのことにいちいち目くじらを立てていたら身が持たない。空になったグラスをテーブルに置き、唇についた泡を手の甲で拭う。
カラ松くんが私の傍らに膝をつき、乾き物を載せた平皿をちゃぶ台に置いた。
「ハニー、つまみもあるぞ。ナッツとチーズでいいか?」
「わぁ、カラ松くん、気が利く!」
「仕事帰りなんだろ?腹が減ってるならライスボールでも握るか?炊飯器にいくらか残ってたはずだ」
「え、いいの?お腹減ってるから作ってもらえたら嬉しいな」
「オーケー、すぐ用意する」
カラ松くんは微笑んで台所へ向かう。天然のスパダリ眩しい。私は彼の背中に向けて両手を合わせた。

一松くんが珍しい物を見るような目で、私の頭の先から足元までをじっと見やる。その後、不可解そうに首を傾げた。
「でもスーツ着てるってだけでユーリちゃん全然印象変わるね。今まで普段着しか見てなかったせいもあるんだろうけど。できる女って感じする」
「まさに大人のお姉さん」
「ユーリ先輩!いや、ユーリ先生!」
「女教師かぁ、魅惑の肩書だよね」
「あんなこともこんなことも教わりたい」
「総じてエロい!」
「エロい!」

五人が力強く断言する。
「仕事帰りの疲労困憊の相手に対してその言い草」
眉間に皺を寄せて苦言を呈する私に、おそ松くんが片手を上げて待ったのポーズ。
「待って、それ誤解だわ。俺ら褒めてるから」
「罵って踏んでください」
一松くんが土下座で深々と頭を下げた。その顔は赤く、酔っ払いへメタモルフォーゼを遂げている。
ビール一杯かそこらで酔うのは早すぎだろう。否、そもそも最初からシラフだった保証もない。

「お前らユーリを何ていう目で見てるんだ。さすがに引くな」
そうこうしている内に、三角おにぎりを載せた皿をウェイターよろしく運んできたカラ松くんが鼻白む。
「は?いやいや、抜け駆けはナシにしようや、カラ松。お前だって女教師のユーリちゃんに大人の階段のぼらせてほしいって思うだろ」
「…ッ!お、思わない!」
挙動不審が凄まじいが、ギリギリのところで否定するカラ松くん。その反応にはチョロ松くんがかぶりを振った。
「いーや、思ってるね。一卵性双生児のエンパシー舐めんなよ。
っていうかさ、僕らと気安く喋ってくれる可愛い女の子の色気あるスーツ姿に何も感じないって、それはそれで失礼だと思わない?」
三男による巧妙な論点ズラし。
感情部分を意図的にぼかした表現にすることで、畏怖や好感といったボジティブな感情を内包しているかのように思わせる匠の技。案の定、カラ松くんは言葉に詰まる。
「そ、それは……」
「まぁ色気だろうが何だろうが、大人っぽい見た目になったと思ってくれる分には、スーツ着て仕事する意味があるよ」
私は彼の言葉に被せるように助け船を出し、会話を強制的に終わらせる。いつまでスーツ引っ張る気だ。
「スーツ萌えは男女関係なくいつの時代も鉄板だもんね。今更今更」
十四松くんが爽やかな笑みで言ってのけた。まるっと同意。




とにもかくにも、やれやれ、である。服装一つでここまで議論になるのは想定外だった。
明日も仕事のため、二階にいるおじさんとおばさんに挨拶して帰ろうと廊下へ出たところで、トイレから戻るチョロ松くんと鉢合わせた。
彼は改めて私の首から下を一瞥すると、顎に手を当てくぐもった声を出す。
「うーん…ユーリちゃんには失礼な言い方になるかもしれないけど、やっぱりスーツだとパリッとしてるから変な…違うな、新鮮な感じするよ」
「そう?」
「カラ松が誘惑されるのも無理はない」
またその話か。
「あいつマジで分かりやすいよね。ユーリちゃんのことどんだけ見つめてんだって話」
チョロ松くんは長めの溜息を吐いた。
気付いていなかったとは言わない。カラ松くんは微かに目元を染めて、傍らの私を長らくじっと見ていたから。
「誘惑だなんて、人聞きが悪いね」
耳にかかる髪を指で掻き上げる。
「ただでさえユーリちゃんに対しては盲目っていうか馬鹿正直っていうか、そんな感じだからさ、カラ松」
「うん、それは否定しないかな」
「スーツ萌えが鉄板だとしたら、ギャップ萌えは世の常だから」
「とてもよく分かる」

間髪入れずに私は同意した。古来より我々人類のミトコンドリアに刻まれている趣向、それがギャップ萌え。さすが盟友のチョロ松氏、造詣の深さには感服するしかない。
ある程度気が緩んでいるオフの顔しか知らない相手の、引き締まったオンの姿。両者の差が大きければ大きいほど、後者の印象がプラスであればあるほど、否が応にも惹き付けられてしまう。それがギャップ萌え。

「でも仮に私がカラ松くんを誘惑したとして、チョロ松くんたちに弊害はないよね?」
私が尋ねると、三男は苦笑いで答えた。
「外野の僕らにまで効果が及ぶことも多いのは厄介かな───特に長男、あいつは調子に乗る。
まず間違いなくユーリちゃんとはそういう関係にはならないだろうって思うんだけど…何せこっちは童貞だしね」
彼はそうは言うけれど、おそ松くんも私も甘さを伴う言葉遊びはするものの、互いの言葉を額面通り受け取らない。決して破られない薄いガラスを一枚隔てた上での戯れだ。
「ありがとう。それくらい私に魅力があるって思ってくれてるんだ?」
腰に片手を当て、片方の足に重心をかける。人によっては気取ったポーズとして捉えるかもしれない。チョロ松くんは苦笑する。
「それ、トト子ちゃんとキャラ被らない?」
「謙遜のしすぎは美徳どころか悪習だと思う」
「あー、なるほど、そっちか」
私たちは意味もなく笑った。会話に終止符を打つ合図みたいに。


「ハニー」
そうこうしているうちに居間に続く襖が開き、カラ松くんが私を呼ぶ。
「ま、そういうことだから」
「りょーかい」
元より続きのない議論を、明確な言葉でもって終わらせる。チョロ松くんは不思議そうに見つめるカラ松くんの視線に応じず、傍らをすり抜けるようにして居間に戻った。その反応を不快に感じたらしい彼は、眉間に浅い皺を刻みながら私の前へと歩を進める。
「チョロ松と何かあったのか?」
「特に何もないよ」
「…オレには聞かせられないような話か?」
二度目の問いの前に、間があった。不愉快さを彼は隠そうとしない。改めて誰かに説明するほどではない他愛ないやり取りだったけれど、かといって隠匿する必要性もない。やれやれと私は内心で肩を竦めた。

「私のスーツ姿に意外性があって、私にその意図がなくてもギャップ萌えで誘惑されてる感じがするねって冗談を言い合ってただけ」
「ゆ、誘惑!?」
カラ松くんの声が上擦った。
「ま、まぁ…確かにブラザーたちには、ユーリのスマートなスーツ姿は刺激が強すぎるかもしれないが…」
自分でいうのは少々憚られるが、体型に合わせたサイズを着ているから誠実な印象は感じられるかもしれない。唇を引き結んで背筋を伸ばせば、パッと見はクールなOLである。
「でも格好いいぞ───オレの次に」
カラ松くんはほくそ笑む。冗談を言う余裕はあるらしい。
「仮にブラザーがユーリに対して何か思うことがあっても、それはあいつらの問題であって、ユーリが気にする必要性は微塵もないんだ。他人の問題は抱えなくていい」
社会経験の少なさとは裏腹に、彼はときどき本質を吐く。経験には基づいていないくせに妙な説得力があって、その言葉に心が軽くなることも多い。情報の入手経路はどこだろう。
「…仕事着だとやっぱり違和感あるものなのかな」
溢した独白は、質問として受け取られたようだった。
「オレの場合は違和感よりもジェラシーを感じてるぞ」
「嫉妬?私に?仕事をして自立してる人生の成功者だから?
「ポジティヴが過ぎる」
淡々と窘められた。
しかし直後、彼の唇は微苦笑の形を作り、右手が私の腕に触れる。

「ユーリはいつもすぐ側にいると思ってたのに、遠い存在に感じる。同じ土俵に立てていたら、こういう思いをしなくてもいいのかもしれないが」

出で立ち一つで印象が変わる。
彼らと会う時の私は、職場で仕事をしている時の私とは違う。行動の対価として金銭を得ることに責任を持ち、真剣に向き合う姿をカラ松くんは知らない。どちらも私の側面だけど、その片側を彼には見せていないから。
「卑屈だねぇ」
「卑屈、か…そうだな。自分でもそう思う」
「スーツは戦闘服なんだよ」
私の言葉に、カラ松くんはぽかんとする。
「気合いを入れて思考を切り替える道具ってこと。これ着てるだけで、誠実っぽくて信頼できそうに見えるでしょ?
もし格好いいと感じてくれてるなら、見た目の印象に引っ張られてるだけだよ」
虚勢にも似て、私の弱さを隠そうとするもの。
「……まぁ、この程度で距離を感じてたら、いつまで経っても膠着状態だしな」
カラ松くんは私から目を逸らして、小さく溢した。
それからわざとらしい咳払いを一つして、一歩私に近づく。距離が詰まる。微笑でもって応えたら、彼も同じ表情を作った。

「近寄りがたいのは纏うオーラだけで、中身はいつものキュートなハニーなのを忘れるところだった」




松野家に滞在していると、時間はあっという間に過ぎていく。六つ子が銭湯に行く時間帯に合わせて私も帰り支度を始めた。畳に置いていたジャケットに手を通す。
「ユーリちゃん、それ格好いいね」
「え?」
チョロ松くんの声に私は動きを止める。何について言及しているのか分からなかったからだ。
「ジャケット羽織る動きだよ。手慣れてる感じがいい」
「分かる。仕事できますオーラが半端ない。おれらもスーツ着る時同じことしてるのに全然違うってことは、そもそもの実績の違いだな」
一松くんが平常と変わらないトーンで三男の賛辞を補足する。
「え、待って、ボク見てなかったんだけど」
「おかわりおねしゃす!」
腰を上げようとするトド松くんの傍らで、十四松くんが畳に額を擦り付けた。
「お断りします」
「何で!?」
「上着羽織るだけでそんなに持ち上げられると、嬉しさ通り越して不気味だから。後から大きなしっぺ返しありそうで怖いよ」
褒めるだけ褒めておいて後で落とすパターンなら再起不能まっしぐらだ。この六つ子ならやりかねない。間違いなく杞憂なのだろうが、私の第六感が警鐘を鳴らす。
「そっかぁ」
しかし十四松くんはあっさりと引き下がり、長い袖を顎に当てて思案顔になった。

「じゃあさ、一つだけお願いがあるんだけど」

五男のお願いは、『玄関で見送りがしたい』だった。
「仕事に行く奥さんを玄関で見送るっていうシチュエーション、一回やってみたかったんだよねー。見送るっていったら父さんばっかりで、正直飽きたっていうか
言うに事欠いて飽きた発言。そんな弟の肩に、長男が腕をかける。
「いいこと言うじゃん、十四松。ユーリちゃんに養ってもらってる疑似体験は、俺もやってみたいと思ってたんだ」
へへ、と照れくさそうに鼻の下を指先で擦る長男。照れる意味が分からない。
「じゃ、いっせーのでいくぞ」
靴を履いてたたきに立つと、六つ子を見上げる形になる。彼らに出迎えられるのは幾度も経験してきたが、帰る前提で送り出されるのは初めてだ。妙な緊張感が走る。
「ユーリ」
「ユーリちゃん」
「はい」
かけられた呼び声に背筋を正す。仕事道具の入った鞄を手前に持って。

「行ってらっしゃい」

駄目だな、と思う。我ながら甘い。
六つの同じ顔から向けられる、無事に戻ってきてくれと願う言霊。自分たちは働かない前提じゃないかとか、逆パターンの方が一般的だろうとか、無粋なツッコミは幾つも脳裏を過ぎったが、言葉になる前に笑い声として空気に溶けた。
送り出されるのも悪くないなんて、そんなことを思ってしまったから。
「行ってきます」
とんだ茶番だ。不意に漂う沈黙が私を正気に戻そうとする。
しかし気恥ずかしさは感じずに済んだ。なぜなら───六つ子全員が尋常でない羞恥心を見せたからだ
「新妻を毎朝見送る主夫になりたい人生だった…」
「新妻って響きがもうエロいの最高峰だわ」
「しかもこれ帰ってきたらアレでしょ。ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ……ああああぁあぁぁぁあっ!」
落ち着け。
「…ユーリがそんな格好するからだぞ」
しまいには、カラ松くんに溜息をつかれる。
「えっ、私のせい!?」
解せぬ。
マジで茶番じゃねぇか。




六つ子に付き合って茶番劇に興じた挙げ句、諸悪の根源呼ばわりされた私はもう不貞腐れるしかない。見送られた際にちょっとでも目頭が熱くなった私が馬鹿だった。穴があったら飛び込んで膝を抱えたい。とんだ黒歴史である。
車のエンジン音が僅かに聞こえる夜道、カラ松くんに同行されながら私の足取りは荒々しかった。
「ブラザーたちの新たな扉を開いたな」
挙句の果てに新性的嗜好開拓者呼ばわり。
「心外すぎる。私別に何もしてないし。むしろ仕事終わりで疲れてるのに好意で寄ったのにこのザマ!」
「ハニーがオンの姿を見せるからだぞ」
「仕事帰りなんだから仕方ないでしょ」
「ノンノン、オレたちを侮ってもらっちゃ困る。いつもの姿と違うギャップにときめくのは定番の展開だろ」
それを言っちゃあおしまいだ。
「ユーリの魅力にはリミットがない。しかも下がることもない」
淡々と、何でもないことのように。

「何をやっても、どんな姿でも───可愛い」

ゆっくりと双眸が細められて、その瞳には私しか映らない。
「それで、だ」
改めて彼は語気を強めた。
「仕事、無理するなよ。辛くなったらいつでも言ってくれ。
頑張ってるハニーはもちろん応援するが、自分を酷使するならオレはすぐ止めるからな」
予想だにしていなかった台詞に、私は面食らった。
「カラ松くん…」

「逃げることさえ面倒なくらい疲弊したら、その時は一言『助けて』だけでいいから言ってくれ。どんな手を使ってでも、オレが必ず逃がすから」

職歴ゼロのニートで童貞、恋人のいない年数イコール年齢。六つ子曰く同世代カースト圧倒的最底辺の言葉に、力強い説得力を感じることをいつも不思議に思う。分厚いフィルターを通して好意的に見てしまう癖があることは、自覚しているけれど。
「頼もしいね、ありがとう」
「本気で言ってるんだぞ」
カラ松くんは笑わなかった。
「忘れないでくれ───世界が敵に回っても、オレはユーリの味方だ」
暗闇には程遠い都会の宵闇が、カラ松くんの真剣な言葉を際立たせる。街灯の明かりが照らす彼の頬は、心なしか赤く。
「うん。私も本気で返事してるよ」
「……そ、そうか」
カラ松くんはようやく少し笑った。
「オレが言うのも何だが、毎日起きて仕事場に行くだけですごいことなんだ。ユーリはもっと自分を誇っていい。ちゃんと仕事行ってる自慢はオレが喜んで聞く」


改札口での別れ際に、カラ松くんは私と向かい合う。

「今日もお疲れさま、ユーリ」