汗ばむ陽気故に、肌の露出が増える夏。
存在そのものが既に尊いと形容される推しが一層尊く感じられるのは、もはや自然の摂理と言って差し支えないだろう。少なくとも私は、そう思いながらこの夏を過ごしている。
「ははは、止めるんだ、じゅうしまーつ!」
ある真夏日の午後、私が松野家の玄関の戸を叩こうとすると、庭からカラ松くんの軽快な声が聞こえてきた。
大型プールを買ったから庭で遊ばないか、そんな心躍る誘いを受けたのが数日前。そして今日は手土産と着替え一式を持って馳せ参じたというわけだ。
独特なイントネーションで名を呼ばれた十四松くんが、明るい笑い声を彼に返す。庭で準備をしているのだろう。私は敷地に入り、庭へと向かうことにした。
角を曲がった私の目に飛び込んできたのは──ノースリーブパーカーと七分丈のカーゴパンツを着た推しの姿だった。
ホースを片手に、十四松くんに満面の笑みを浮かべている。
私は言葉もなくその場に崩れ落ちる。
「わぁっ、ユーリちゃん!?」
最初に気付いたのはこちらに体を向けていた十四松くんで、その叫びに驚いてカラ松くんが背後を振り返る。
「ユーリ!ど、どうした!?」
私を認識するや否や、水の流れ続けるホースをプールに投げ捨て、カラ松くんが駆け寄ってくる。
この時になってようやく、縦五メートル横三メートルほどの巨大な大型フレームプールが、庭の大半を占拠していることを視認した。十四松くんはその中で、水鉄砲を構えている。
「エロい…」
カラ松くんが傍らで膝を立てるのも構わず、私は両手で顔を覆う。
「は?」
「唐突なノースリーブで痛恨の一撃食らった…パーカーなのにノースリーブって何なの。手も足も露出は控えめなのに、その控えめが逆にエロいって何なの…っ!?」
露骨な肌見せよりも卑猥。ホースを持ち上げる片手からは脇チラも拝め、さらに足元は無防備にもサンダルだ。これはもう圧倒的色気の暴力。タンクトップとショートパンツの過激な出で立ちには痛さしか感じないから、やはり本人の無自覚がキーワードなのか。
「ノースリーブは殺戮兵器」
「ハニー!?」
「大丈夫大丈夫、ただの致命傷だから」
「来て早々に瀕死はヤバイぞ」
太陽の下で水と戯れる推しの絵の、何と素晴らしいこと。開幕一秒でもう推し成分お腹いっぱい。
「フッ、隠しても隠しきれないオレのセクシーさに魅了されてしまったというわけか、マイハニー。今のユーリはさながら、溢れ出るギルティな色香に惑わされ、蜘蛛の糸に絡め取られた可憐なバタフライだな」
よく見れば、カラ松くんの片側の頬には水滴が付着している。先程の笑いながらの叱責は、五男の水鉄砲によるいたずらを咎めたものらしい。天使かよ。
松野家の庭に出現した大型プールは、厚手の塩化ビニール生地を耐久性のあるスチールフレームで固定する、空気入れが不要のタイプだ。ただしその巨大さ故、家庭用ホースで水を溜めるのに軽く数時間を要する。
「よくこんな大きなプール買えたね。みんなで割り勘したの?」
心地よい表情でプールに浸かる六人を尻目に、私は外からアルミパイプを手でなぞる。
「父さんが買ってくれたんだー。ユーリちゃんも入るって言ったら速攻で購入ボタン押してくれた」
さすがは六つ子の親。
トド松くんもその反応を見越して、商品ページを表示したスマホを突き出したに違いない。策士だ。
「ハニー、まだ入らないのか?気持ちいいぞ」
プールの縁に片腕をかけ、カラ松くんが私に言う。一緒に風呂入ろうみたいな言い方とポーズ止めろ、絵面が洒落にならない。ゴチです。
「そうだね、じゃあ私も準備して──」
言い終わらないうちに、私の腹部に水がかかる。十四松くんが私に水鉄砲を向け、にこやかな笑み。
「ユーリちゃんを撃破しやした!」
「あ、ちょっと十四松、何やってんのっ」
水鉄砲を小脇に抱えて敬礼のポーズを取る十四松くんを、チョロ松くんが嗜める。
「まぁまぁ、この陽気ならすぐ乾くよ」
「トッティの言う通り!早く着替えないと、もう一撃いきまっせー」
おどけたポーズで水鉄砲を構える十四松くんは、改めて銃口を私に向ける。その姿はさながらスナイパーだ。
「十四松、ハニーに悪ふざけは止めるんだ」
カラ松くんがすっくと立ち上がる。彼としては、おそらく兄弟のイタズラを制止したかっただけなのだと思う。しかし立ち上がった拍子に波打った水がプールから溢れ、私の衣服を一層濡らした。
「カラ松くん…」
「わああぁぁっ、すまんっ、ハニー!」
カラ松くんは謝罪と共に濡れた両手で私の肩を抱く。唯一無傷だった胸から上もこれでアウト。わざとか?これはわざとなのか?
「あーあ、カラ松が一番悪ふざけしてるよな」
「確かに。トドメさしたのはお前」
おそ松くんと一松くんの掛け合いを聞き、私は頭痛がしそうだった。
さりとて、プールに入らないという選択肢はない。
濡れた服を縁側で脱ぐ。中に水着を着込んでいたのが幸いだった。
「元はと言えば十四松くんのせいだからね。ちょっとその水鉄砲貸して。報復する」
「いいよー。もう一丁あるから勝負しよっか、ユーリちゃん」
空の水鉄砲を投げて寄越してくるので片手で受け取り、プールの縁をまたぐ。
「ユーリ、足元には気をつけるんだぞ」
「ん?…あー、はいはい、分かった分かった」
カラ松くんの忠告を受けて、私は軽く笑う。
なぜなら、プールの水面にはおそ松くんと一松くんが撒き散らかしたスーパーボールが大量に浮かんでいたからだ。縁日で使う専用の網を用意して、どちらが大量にすくえるか今まさに勝負の乗っ最中。
しかしまぁ、スーパーボールは水に浮くから注意する必要もない。そう思って底に足をつけた瞬間──私の体は傾いた。
足の裏に、円形状の何かを踏んだ感触。驚く間もなく、視界には青い空がいっぱいに広がる。
「ユーリ…っ」
幸いにも、私の体は水中に沈むのを免れた。傍らに立っていたカラ松くんが、咄嗟に私の肩と腰を抱きとめたからだ。
「だから気をつけろと言っただろう?」
私を見下ろす視線には、呆れも多分に含まれていた。
「えっ、だって、スーパーボールは沈まないはずじゃ…」
「沈むタイプの玩具も何個かあるんだ。人の忠告は大人しく聞いておくもんだぞ、ハニー」
それを先に言え。
だが彼の注意を話半分に聞き流した私にも非はあるので、喉まで出かけた文句は飲み込んだ。
「おそ松、ハニーが危うく転ぶところだっただろ。タマゴはさっさと回収しろ」
タマゴ型の玩具なのか。そういえば水泳訓練用に、そんなグッズがあったような気がする。
それにしても、と私は抱きとめられた格好のままカラ松くんを見上げる。濡れて後ろに撫で付けられた髪からぽたりと落ちる雫と、程よく引き締まった体を伝う水滴が最高峰にエロいし、長男に向けるジト目と、私には決してしない容赦のない物言い、さらに胸と腹筋が顔の真横。
「んんんんんんんんんっ!?」
もう止めて、私のライフはゼロよ。
「はい、カラ松くん」
ひとしきりプールで戯れた後、水分補給のための休憩時間に、手土産のアイスキャンディを六つ子に配る。
「ん、サンキュー」
透明のビニールを破ってカラ松くんは口に咥えた。六つ子たちは縁側に一列に並び、直射日光を浴びながらアイスで体を冷やす。カラ松くんは極々自然に端に陣取るから、配り終えた私の席は自然と彼の隣になる。
晴天の真夏日、気を抜けばアイスはすぐに溶けていく。私は隠密さながらにそっとスマホを構えた。
「…何をしてるんだ」
溶けて垂れそうになるアイスを舌ですくって、カラ松くんが低音で言う。
「お気になさらずに」
もう何十年と使い古された定番の絵だが、アイスキャンディを咥える推しのエロさたるや、筆舌に尽くし難し。情事を連想させる行為としてしばしば魅惑的に認識され、ただのアイスだぞそんな馬鹿なと切り捨ててきたが、考えを改めよう、とてもエロい。
濡れそぼった体、液状になったクリームをゆるりと舐め取る仕草、その際の無感情とも思える気怠げな半目、私を咎める低い声音、どれを取っても妖艶でしかない。こんな色っぽい生き物が地球上で童貞として生きてていいのか、むしろ今までよく童貞守れたと称賛に値するんじゃないのか。マジで昇天するぞ、私が。
「アイス食べてるだけだぞ」
「そこがいいの」
「…ユーリ、自分のアイスが溶けてる」
呆れたように指を差されて視線を戻せば、片手で握っていたアイスのクリームが、棒を伝って指に落ちていた。乳白色の液体が今なお腕を目指して肌を伝う。
「あ、本当だ」
推しの撮影に夢中で自分の分をすっかり失念していた。
しかし放置するのも本意ではないので、まずは本体のクリームを素早く舐め取る。続いて手首を持ち上げて、皮膚に直接舌を這わせた。お世辞にも上品な作法ではないが、どうせこの場には六つ子しかいないのだ。味わうよりも億劫さが先立ったため、我知らず不機嫌な表情になっていてかもしれない。
おおまかに舐め取って残りをタオルで拭いた頃、突き刺さる視線に気付いて横を向くと、六つ子が全員揃って赤い顔で私を凝視していた。
「…何?」
首を傾げて問うたら、数名がびくりと肩を竦める。
「いや…Sっ気すごい顔してた」
「襲われたい」
「抱いて」
続けざまに吐き出される感想に、私は閉口する。
「私は推ししか抱かないよ」
「へぁっ!?」
カラ松くんは私の回答を聞くなり素っ頓狂な声を上げて、目を剥いた。僅かに残っていたアイスが棒ごと手を離れ、地面に落ちる。
「あーあ、もったいないよ、カラ松くん」
「だ、誰のせいだと思ってるんだ!語弊のある言い方するんじゃないっ」
事実を述べたまでなのに怒られた。解せぬ。
一足先にプールを出て、二階の部屋で缶ジュースを飲む。濡れた服はまだ乾かず、庭の物干し竿に吊るされてゆらゆらと風にたなびいている。
取り急ぎカラ松くんの青いティシャツとトド松くんの短パンを借りて、私はソファの上であぐらを掻いた。彼らと身長にさほど差異がないせいか、自分の部屋着と称しても違和感はない格好だ。
全開にした窓から入る風を受けてくつろいでいたら、誰かの階段を上がる足音が近づいてくる。
「ハニー、服のサイズは───」
開いた襖から現れたのはカラ松くんで、私の姿を視認するなり息を飲んだ。
「サイズ?サイズはちょうどいいよ。ありがとね」
「…あ、ああ、そ、それなら…いいんだが」
カラ松くんは装着してもいないサングラスのズレを直すみたいに、こめかみに指を当てる。
「ユーリ、その格好…」
言い淀む声。
「可愛いな…」
んんっ!
私は必死に己を律して、唇を引き結んだ。可愛いと口にする推しの方が何倍も可愛い。
いつもなら、オレほどじゃないがなかなか似合うじゃないかハニー、ナイスなチョイスだぜぇなんて苛立ちを誘発する気取りを見せるくせに、ときどき素で褒めてくるの止めて。
「ありがとう。みんなは?」
「片付けながら水風船投げをしてるから、もうしばらく庭にいるじゃないか?」
「えー、水風船いいなぁ。私も次は参加しよっと」
「それは構わないが、オレはおすすめしない。十四松の一人勝ちだからフラストレーションが溜まるぞ」
松野家フィジカル担当かつ、家族から軟体動物と称されるほどの柔軟性を併せ持つ四男。全員の攻撃を的確にかわす光景がありありと想像できた。さすが、蛇口に隠れる技を持つ男だけのことはある。
確かになぁと納得していたら、カラ松くんが姿見の前でゴールドのチェーンネックレスを装着しようとする姿が目に映った。今の出で立ちは先程の健康的なパーカーではなく、体のラインを強調するVネックのティシャツだ。僅かに俯き、両手を首の後に回す。
何という色気の塊。小首を傾げて金具を留める手付きが妖艶で、目が離せない。既に底を尽いているライフをさらに削ってくる苦行。
これが全部無自覚っていうんだから、うちの推しは小悪魔が過ぎる。いっそ分かりやすい誘惑なら、一笑に付して振り払えるのに。
私はそっと彼の背後に立つ。大きな全身鏡に、私の体が映り込んだ。
「ん?何だハニー、手伝ってくれるのか?」
嬉しそうに顔を綻ばせるカラ松くんには答えず、右手の指先で彼の剥き出しになったうなじをなぞった。
「ひぁ…っ」
カラ松くんの口から大きく裏返った声が漏れる。何もそこまで反応しなくともいいのにと顔をしかめかけて、立ち上がるまで冷えたジュースをずっと握っていたことを思い出す。
「あ、ごめん」
「…は、ハニー!?」
しかし振り返った彼の顔に浮かぶのは、驚きの感情だけではなかった。頬が赤いのは、ひょっとして。私はカラ松くんの耳元に口を寄せ、そっと耳打ちする。
「──ちょっとだけ、気持ち良かった?」
「な…っ、ち、違、そんなこと…」
図星か。
私は無言で、うなじに這わす指の数を増やした。襟首からうなじ、そして鎖骨へと、複数の指の腹でゆっくりと撫でる。必死に声を殺した吐息と共に、カラ松くんは逃げるように前傾姿勢を取ろうとする。
私は覆いかぶさるようにして、彼のうなじにふっと息を吹きかけた。
「っ、ぁ…!」
「ごめんねー、来てすぐからの度重なる推しのエロさでムラっときちゃって」
「言い方!」
ここが六つ子の部屋でなければ、決して逃しはしないのに。
さて、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶とやらは、果たして一体どちらなのか。
「嫌なら名前呼んで。それがセーフワードね」
「セーフ、ワード…?」
「そう。止めてほしいときの合言葉」
止めてという言葉は、本気の拒絶なのかフリなのか判断がつかないことがあるから。
告げた後、私は背後からカラ松くんの顎に手を回して、少々強引に持ち上げる。戸惑いと高揚感の混じった表情が、鏡に反射した。
「…っ、ハニー、誰か来たら…」
「来たら分かるよ。それに階段上りきるまで猶予あるから」
木の板を踏み抜く音は意外に響くものだ。それに何も情事に及ぼうとしているのではないから、手を離せば一瞬で元通りになる。全て計算の上で、私はにっこりと微笑んだ。
「こ、こら…ッ」
「大丈夫大丈夫、怖いことは何もしないから」
空いている方の手でカラ松くんの腰をひとしきりさすったら、服の中に手を侵入させる。この時にはもう、私の手と彼の腹部の体温に大きな差はなくなっていた。
柔らかな自分の体とはまるで異なる、どちらというと弾力性に欠ける、けれど厚みのある質感。腹筋から上部へと手を移動させようとしたら、カラ松くんが目を瞠った。
「ちょ、それはっ…ユーリ…っ!」
「うん、分かった」
即座に手を離して降参のポーズを取れば、唖然としたのはカラ松くんの方だった。
「……あ」
咄嗟に口を突いて出た、そう言いたげな顔だ。
「え、あの…」
「約束通り、おしまい。いやー、便利だね、セーフワード。でもセクハラちょっとやりすぎたかも、ごめーん」
「──ユーリ」
目線を落としたカラ松くんから、いつになく抑揚のない低い声音で名を呼ばれて、私は戦慄した。思い過ごしかもしれないが、禍々しいオーラが漂っている気さえする。よし、逃げよう。
私が一歩後ずさろうとした矢先、軽々とすくい上げられて、いわゆるお姫様だっこの状態で体が宙に浮いた。カラ松くんは眉根を寄せ、無言で私を見下ろす。
「あ、あの、カラ松くん…」
ここは誠心誠意謝罪すべきかもしれない。危機感を覚えて口を開きかけたところで、ソファに横たえられる。
「なぁ、ハニー」
けれど起き上がることは許されない。カラ松くんが私の腹部に馬乗りになったからだ。冷笑に近い笑みが、私を見下ろす。
「オレとハニーは対等だよな?」
ヤバイ。
「いやぁ、まぁそうだけど、さすがにこれはいささか乱暴なシチュエーションじゃないかな?」
「目には目を、歯には歯を、だ」
それ復讐ですやん。
「その気にさせておいて…ユーリだけ満足するのは、なしだと思わないか?」
雄みがすごい。
可愛いのに格好いい、二つの顔が当然のように同居する最強の当推し。危機的状況にも関わらず、組み敷かれて無感情な双眸で見つめられる展開は激レアじゃないのかと高揚する自分を自覚したら、危機感なくて申し訳ないがムラッときた。その顔歪ませて抱きたい。
カラ松くんのこんな姿が見れるのは、きっと私だけの特権だ。
というか、何これ、今日はエロスの目白押し。星座占いで軒並み一位だった?それとも今年の運を使い果たせという神のお告げか?
「セーフワードはあるんだよね?」
訊けば、そうだな、とカラ松くんは失笑する。
「カラ松、だ。カラ松くんじゃない───カラ松」
私は肩を揺らして笑った。
「分かった、了解」
それから、幸いにもまだ自由な両手を持ち上げ、カラ松くんの首の後へと回し、力を込めて引き寄せた。
「な…っ!?」
唖然とするカラ松くんを抱き込み、耳元で囁く。
「カラ松」
「……ッ」
カラ松くんが勢いよく上体を起こす反動で、腕が振り払われる。私の両手は宙に浮かんだまま、行き場を失った。
火がついたように赤面する彼は、片腕でもって口元を隠す。
「は、早すぎるぞっ、ユーリ!」
悪人を演じきれない、そういうところも可愛い。とても、可愛い。
「ごめんね、こっちの位置はどうも趣味じゃなくて──っていうか、ええとね、実は」
「おい、カラ松」
いつの間にかカラ松くんの背後に、チョロ松くんが立っている。
「…あ」
遅かったか。
私を見下ろしたまま顔面蒼白にして、カラ松くんは硬直する。自分が攻める立場ならいち早く気付けただろうが、立場が逆転したために動転し、察知するのが遅れてしまった。
「ち、チョロ松、違うんだ!これには事情があって、その──」
「やかましい!」
三男が振り下ろしたどこからともなく取り出した巨大なハリセンが直撃し、カラ松くんは盛大に吹っ飛んだ。
ツッコミ時のチョロ松くんの攻撃力はカンストするから恐ろしい。
「あー…」
私は体を起こし、障子に突き刺さるカラ松くんに憐憫の眼差しを向けた。助かったと安堵する気持ちもあるが、元はと言えば私に非があるから、申し訳なさが先立つ。
「白昼堂々とユーリちゃん襲ってんじゃねぇぞ、クソ松!恥を知れっ」
吐き捨てるチョロ松くんの怒号が室内に響き、騒ぎを聞きつけて残りの六つ子たちが何事かと不審がって顔を出す。
その後、チョロ松くんを始めとする彼らに事情説明をして納得させ、さらに不貞腐れたカラ松くんを宥めるのに膨大な時間を要するのだが、ここでは省略しよう。
あれもこれも全部、夏の推しが尊すぎるのが悪いのだ。